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学級委員長決め
朝から校門前が騒がしい。なんだろうか、と遠目で確認すると飯田くんがマスコミらしき集団に囲まれてインタビューを受けていた。あ、オールマイトの就任の件か、とすぐさま答えに辿り着く。連日ニュースで取り沙汰されている、世間で今話題のあれだ。
このまま行けば、わたしも声を掛けらてしまうだろう。朝から、面倒だなあ。
前後を見渡して、学生が少ないことを確認する。よし、今ならいっか、と地面を蹴り上げた。体がふわりと宙に浮く。こんな塀を飛び越えるのなんて、お茶の子さいさい。学生証を持ってるからさすがに警報は鳴らないだろうし。
スカートを押さえつつ、そっと校内へ着地しようとした時だ。
「オイ」
「わ! わわ、……相澤さん」
危うく着地で足をひねるところだった。
「塀を飛び越えるな。セキュリティの意味ねェだろうが」
「う、……ごめんなさい」
ツイテナイ。この人いつもタイミング悪く現れるのなんでだろう。勘弁してくれ。
「マスコミ、すごいですよ」
「ああ、今から注意しにいくとこだ。……ったく、面倒くせェ」
手を首の後ろに掛けてもなお、相澤さんの顔には面倒臭いがこびりついている。
「……それと苗字、いい加減”さん”付けはよせ」
「あ、ほんとだ。すいません、つい最初の癖で」
「ったく」
相澤”先生”はそのまま群がる記者たちの方へと歩いていった。いつもの数倍気だるげな後ろ姿を見送る。
老けてるな〜〜、相澤さんって何歳なんだろ。
「あの、オールマイトの──って小汚な! なんですか、あなたは!?」
「彼は今日非番です。授業の妨げになるんでお引き取りください」
ぶはっ! 小汚いって! 遠くから聞こえた女性記者の言葉に、つい吹き出してしまった。その場でクスクスと笑っていると、小汚い”先生”が戻ってきた。
「ふふ、”せんせい”、言われてましたね」
「うるせェ、……俺は合理的に生きてんだよ」
じゃあ、そういうことにしておきますか、”せんせい”。その後、相澤さんに二度目のうるせェをくらうまで、しばらく笑いが止まらなかった。
朝のホームルームが始まった。
「昨日の戦闘訓練おつかれ。VTRと成績見させてもらった。爆豪、お前もうガキみてェな真似すんな、能力あるんだから」
「……わかってる」
「で、緑谷はまーた腕ブッ壊して一件落着か。個性の制御、いつまでも『できないから仕方ない』じゃ通させねェぞ。俺は同じことを言うのは嫌いだ。それさえクリアすればできることは多い。焦れよ、緑谷」
「っはい!」
「さて、HRの本題だ。急で悪いが、今日は君らに──学級委員長を決めてもらう」
学校っぽいのきたー!
臨時テストか!?とひやりとした身体を、腕をさすって宥める。でも、学級委員長なんて絶対にやりたくないなあ。雑務以外のなにものでもない。どうせみんなやりたくないんだろうけど、と肘をついて窓の外を眺めた。
しかし予想に反して、わたし以外のほぼ全員が手を挙げている。我こそは!というみんなの勢いに、目を剥いた。え、なんで!?
「静粛にしたまえ! 多を牽引する責任重大な仕事だぞ! 『やりたい者』がやれるモノではないだろう! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務。民主主義に則り真のリーダーをみんなで決めるというのなら、──これは投票で決めるべき議案!」
すごい、飯田くんの腕が誰よりもそびえ立っている。まだ話したことない人もいるので投票と言われると正直疑問は残るが、誰かに一票を投じるならわたしの心は既にひとりに決まっている。
「どうでしょうか、先生!」
「時間内に決めりゃ、なんでもいいよ」
「ありがとうございます!」
投票が始まって、立候補する気のないわたしは白い紙に”緑谷”と書いてそそくさと投票箱に入れる。席に戻るとき、目が合った緑谷くんににっこりと笑いかけておいた。
「僕、4票──!?」
「なんでデクに! 誰が!」
「まぁ、おめェに入れるよか分かるけどな」
わお、緑谷くんって人望あるんだなあ、と呑気に見守る。まあ入れた人はなんとなく分かってしまうのだが……。一票も入ってない名前を誰かが炙り出さないかドキドキしながら、時が過ぎるのを待った。
「じゃあ委員長は緑谷。副委員長は八百万だ」
「まじで、まじでか……」
「はあ〜、悔しい……」
さすがと言うべき百ちゃんのとなりで、教壇に立ちガチガチに震える緑谷くん。その姿に少しの加虐心をそそられていると、投票結果に納得の声がちらほらと聞こえてきた。
「いいんじゃないかしら」
「緑谷、なんだかんだで熱いしな!」
「八百万は講評のときのが、かっこよかったし」
うんうん、わたしもそう思ったの! にこにこが止められない。