【お試し読み】後日譚
いつも天音の作品をご覧いただきありがとうございます。
この度、感想を送っていただいた方限定で後日譚を公開することになりましたので、そのご案内です。下記のどちらかの方法で読むことができます。
方法① Pixivからマイピク申請を行う
(募集期間外でも「サイトから来ました」と記載いただければ常時受付します!)
方法② waveboxにて下記要件を記載した上で、感想を送る
(送信者限定公開でお返事をするので、必ずログインしてからお送りください)
<応募要件>
①「十八歳以上かつ高校卒業済みである」旨を記載する
② 作品「もう、いい子は辞めます」の感想を添えてください
(一言感想や極端な短文の方はNGです)
作品が好きな方で、かつ感想を送っていただいた方に感謝の気持ちとして公開したいので、厳しめの要件ですがもしご希望の方がいらっしゃいましたらメッセージお待ちしております!
<その他 留意点>
感想が「面白かったです」だけの方や、(社会人として当然の)ご挨拶がない方はお通ししてません。私も本気で書いてるので、そこらへんはご理解いただければ……!
以下、お試し読みです。
↓
一、俺のすべてを受けとめてくれ
「イレイザー!」
事件現場のそばで座り込む俺を見て、塚内さんはすぐに状況を把握したようだった。おそらく同様の被害がこれまでに何件も出ていたからだろう。
深夜帯の、暗い路地裏。
肌に刺すような寒けさの中で、俺はひとり呼吸を荒げている。身体が、燃えるように熱い。
「そこ、に……」
意識が朦朧とする中、近くに横たわる主犯格の男を震える手で指さした。塚内さんがそいつを視認して、すぐさま部下に捕獲の指示を出す。
──くそっ、油断した。
なかなか姿を現さない敵に、ここで逃しては面倒だと深追いしたのがよくなかった。敵グループの中に厄介な個性がいると聞いてはいたが、まさかここまでとは。
「ひとまず、移動しよう」
後処理は部下に任せるとのことで、肩を借りながら塚内さんの車へと誘導される。
「平気か、イレイザー」
「くっ……はい」
苦しそうに返す俺を助手席に押し込み、彼が運転席に座った。到着した部下が女性警官だったため、急ぎ引き離してくれたらしい。
「うっ……」
車体が動き出した振動で身体が揺れて、また唸るような声が出た。両腕で自らを抱き込んではいるが、少しの振動でも身体が反応する。
「かなりつらそうだな。さて、これからどうする」
本来ならば病院へと言いたいところだが、この個性攻撃には治療の手立てがないことは事前に聞かされていた。その意味でどうするかと問うているのだろう。
「その、よかったら紹介しようか」
「っ……うっ……」
「ごく稀にこういう事態もあるから、メディアに足のつかないよう手配はできる」
何を、は訊かなくても察しがついた。
「はぁっ……っ、必要……ない」
「念のために伝えておくが自己処理はかなり骨が折れるらしいぞ。先週うちの部下もやられたが、そいつは一週間ほど家から出られなかったらしい」
「っ、別に」
──問題、ないです。
「そうか。じゃあせめて家までは送らせてくれ。ヒーローを犯罪者にするわけにはいかないんでね」
言葉を発するのも億劫で、震えに乗じて小さく頷いた。
信号が変わって、また車体が動き始める。狭い車内を俺の吐息だけが温めている。ガクガクと震える身体は、まるで内側に秘めている獰猛な何かを引きずり出されるようだ。
ふと、彼女を思い出した。その瞬間、脳内で甘い声がささやく。
『せんせい』
「うっ! はあ、くそっ……」
腕に爪を立てて、もっていかれそうな意識をなんとか繋ぎ止める。
「そういえば、彼とはまだ一緒に住んでいるのかい?」
「っ……ええ」
「そうか」
塚内さんは熱を発する俺を横目に、急ぎ車を走らせた。
この調子だと一週間は休まざるを得ないだろう。とりあえず明日、マイクに事情を話さなければ。それから──。
がたん、と揺れてハッと目を覚ました。
肩を担がれている。どうやら意識が飛んでいたらしい。気づけばそこは、自宅マンションの入口だった。
引きずられていた足を、なんとか地につける。
「っ、ここで……」
「いや、そういうわけにもいかんだろう」
俺に肩を貸したまま、塚内さんがインターホンを押した。すぐさまガチャリと通話音が鳴る。
「塚内だ。すまないがこの通りだ、開けてくれないか」
その声を聞いてか、すぐさまエントランスの扉が開いた。引きずられるままエレベーターに乗り込めば、段々と自宅フロアが近づいてくる。
マズい、今週は弔が出張で家を空けている。今、家にいるのは──。
「せんせいっ!」
玄関扉から飛び出してきたパジャマ姿の女に、塚内さんの体が大きく跳ねた。
「っ! ……あ、ああ、驚いたよ。君も来てたのか。実はイレイザーが戦闘中に個性攻撃を受けてしまってね……その、まあ、なんだ」
「もしかして熱ですか? 顔がすごく赤い」
そっと頬に添えられた手が冷たくて気持ちいい。その心地よさに、ぶるりと身が震えた。
──ああ、もっと欲しい。
「っ、塚内さん……ここでっ、はぁ、結構です」
「あ、ああ。だがしかし、彼はいないのか? 君を運ぶにはせめて男手がいるだろう。それに、彼女にもしものことがあっては──」
言葉の途中で、塚内さんがハッと体を揺らした。
部屋着姿の彼女から何かを察したのかもしれない。それからしばらく沈黙して、彼は意を決したように口を開いた。
「……すまないが、彼を頼めるかい?」
「はい、もちろんです!」
「塚内、さん……このことは、っ、オフレコで……頼みます」
「ああ、わかったよ」
締まりかけた扉の向こうで、塚内さんが深く頷いたのが見えた。
口の固い人だ。どう解釈したかはわからないが、きっとマスコミ沙汰にはしないだろう。
──バタン
扉が閉まると同時に、糸が切れた。背中がずるずると壁をつたって、そのまま床にへたりこむ。彼女がすかさずしゃがんで、俺の顔を覗き込んだ。
「先生、大丈夫ですか!? 何があったんですかっ」
近づいてきた彼女から風呂上がりのやさしい香りがする。その瞬間、抑えていた何かがぶわりと溢れ出した──もう、限界だ。
「個性攻撃って、いったい……きゃっ!」
腕を掴み床へと倒れ込めば、彼女の柔らかさがすべてを受け止めた。意識が朦朧とする。抑えていた本能が彼女に手を伸ばす。
「すまん……許せっ」
このとき俺は、謝罪の言葉を発するのでやっとだった。
つづく