21

チーム決め

「第一種目もようやく終わりね! それじゃあ結果をご覧なさい!」

 障害物競走の結果は、1位が緑谷くん、2位がわたし、3位轟くん、4位は爆豪くんだった。当初から5位以内が目標だったので、結果は上々だ。

 第一種目は運良く障害物競走だったため勝ち残れたが、──さて、ここからが本番だ。まずはなにがなんでも一対一の勝ち抜き戦に食い込まなければならない。

「さーて第二種目よ! わたしはもう知ってるけど、なにかしら〜なにかしら〜、言ってるそばからコレよ!!!」

 そこには【騎馬戦】の文字が映し出された。

 ぐわあああー! わたしを地面に張り付けないでくれえええー!

 思わず、両手が頭に張り付いた。しかも、団体競技。その内容は、障害物競走の結果に従って各自に与えられたポイントを奪い合う、ポイント奪取型の騎馬戦だった。わたしの持ち点は、205点。1000万点を言い渡された緑谷くんが、視界の端で固まっている。その姿を見て、少しだけ自分に冷静さが戻った。

 あぶない、一抜けしなくてよかった。でも緑谷くんと組むと結局狙われることになるのか。うーん、どうしたものか。仲良い人と組みたかったのに。そもそもこんなわたしと組んでくれる人なんているのか? ハブになった場合って、自分から声掛けないとダメなんだろうか……ダメなんだろうなぁ……

 考えすぎて頭が痛くなってきた頃、ミッドナイト先生のルール説明が終わった。

「それじゃあこれより15分! チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

 よし、まずは冷静に考えよう。

 誰と組むかは一旦横に置いておいて、一チーム2〜4名のポジションは騎手、前騎馬、後騎馬1〜2名で構成される。わたしは翼があるため前騎馬にはなれない。騎手か、もしくは後騎馬だ。

 いや、いざという時に”飛んで逃げる”という選択肢を残すのであれば、後ろはダメだ。バランスが保てない。わたしの力を活かすなら、やはり騎手一択だ。

 となると、騎馬として自分と相性の良い人物は……そう、お茶子ちゃんだ。女の子を騎馬にするのは気が引けるが、彼女の個性を使えばわたしが全員を吊って飛ぶことができる。攻撃面は、わたしの場合とくに考えなくていいだろう。

 頭の中で考えがまとまって、よし、と声を洩らした。まずはお茶子ちゃんに声を……

 身体が動き出した瞬間、予想外にも後ろから腕を掴まれた。

「オイ、俺と組め」
「……へ!?」

 振り向くと、そこには片眉を釣り上げた爆豪くんが立っていた。驚いて固まっていると、その後ろには付き添い人がぞろぞろと列をなしている。

「俺と組め、爆豪!」
「えー爆豪、私と組も? ……あ! 名前も一緒!? 絶対組もう!?」
「えー! 私も一緒組みたーい!」

 待て、待て待て。彼の後ろには、砂藤くん、三奈ちゃん、透ちゃんに続き、瀬呂くんや障子くんまでもが大名行列のように押し寄せていた。

 いやいや、君、人気過ぎやしないかい? 

 その荒波に呑まれていると、これまた逆方向から切島くんが駆け寄ってきた。

「おーい! 轟の奴、ソッコーでチーム決めやがったぜ! 爆豪! 俺と組もう!」
「クソ髪」
「切島だよ、覚えろ!! お前の頭とそんな変わんねぇぞ!! おめェ、どうせ騎手やるだろ? そんならおめェの爆発に耐えられる前騎馬は、誰だ!?」
「……根性あるやつ」
「違うけど、そう! 硬化の俺さ!」

 まずい。爆豪くんが騎手をやる流れになってる……これはまずい。ゆるんだ、今の隙に……!

「……あ、オイ! こら待て、テメェ!!」
「ひいっ!」

 わたしは一目散にその場から逃げた。そもそも爆豪くんの下で騎馬なんかやったら、わたしの翼に火がついてしまうではないか! 考えただけでも恐ろしい。

 怯えながら当てもなく走っていると、視界の端に紫色が飛び込んできた。

 あ、あの人は……!

 わたしは救世主にでも縋るかのごとく、その人物へと駆け寄った。背後から近づいて、荒い呼吸のまま彼の両肩に手を置くと、その身体がビクッと跳ねる。

「ねえ、君! ……残ってたんだね!」

 紫の頭が、ゆっくりとこちらを振り向いた。さきほどは飛びながら話していたから気づかなかったが、地上から見上げると彼は想像よりもずっと身長が高かった。

 紫の瞳とかち合うと、熱いものがまた身体をかけ巡る。初めて会った時も、そうだった。なぜだろうか、わからないけど、それでも、

 わたし、この人と組みたい──!

「……あの、よかったら、わたしと組んでもらえませんか?」

 期待を込めた視線を送ると、彼は目線をずらして首を掻いた。

「……いいけど」
「ほんとうに? やったぁー!」

 障害物競走で担がれていた彼は、おそらく人を操るタイプの個性だろう。そんなのもう、勝ち確定じゃないか。わたしが満面の笑みを返すと、彼は少々困惑したようにこちらへ視線を戻した。

「……ところでアンタ、なんで俺の洗脳にかからないんだ?」
「え、どうやったらかかるの?」
「……俺の問いかけに、答えたら」
「え!! それだけで?! す、すごい!……あれ、でもわたしかかってないや」
「だから、何でって聞いてンだけど」
「うーん……そう言われてもなぁ」

 首を傾げると、ハァ、と深めのため息をつかれた。

「……じゃあ、組む代わりに一つ条件いい?」
「うん」
「俺の個性のこと、誰にも話さないって約束してくれ。特に、あんたのクラス連中には。それが守れるなら、組んでやってもいい」

 なるほど、初見殺しの個性というわけか……。

 しかし彼の心配とは裏腹に、わたしの胸には嬉しさが込み上げていた。なぜなら、彼も一対一のバトルを見越してここに立っているとわかったからだ。緩みそうになった口元を一文字に結び、背筋を伸ばす。

「うん、約束する。誰にも話さない」

 疑うような視線に、わたしは真剣な顔で返した。彼が観念したように、鼻から息を洩らす。

「それと、こいつらはもう洗脳してるから、終わるまでは解かないよ」
「……洗脳、かける必要ある? 尾白くんはわたしのクラスメイトだよ?」
「もうかけちまったんだよ。今バレたら、後々面倒だろ」
「あー、なるほど。……わかった! わたし、苗字名前。よろしくね」
「……心操人使。よろしく」

 心操くん、かぁ。名前は聞いたことないや。やっぱり初対面なのかな?

「心操くん……しんそーくん、心操くん」

 わたしは何度か彼の名前を呼んで、自分の口に馴染ませた。やっと名前を知れた喜びで、つい顔がゆるむ。

「……気持ち悪いからやめてくれ。あんた、飛ぶ以外になにができんの?」

 なかなかのS気質な彼にこれはニュータイプのお友達だな、となぜか心地良ささえ感じている自分に、自分でも驚いた。

error: このコンテンツのコピーは禁止されています