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放課後の反省会

 7限目の授業を終えて、放課後の教室では戦闘訓練の反省会が開かれていた。

「名前〜〜! 戦闘訓練すごかったね! カラス操れるなんて聞いてないよ!」
「それな! まさかあの推薦入試組に勝っちまうなんてよー! 熱いぜ、お前ェ!」

 赤い髪の彼──切島くんが、三奈ちゃんの隣でガッツポーツを決めながら、熱く褒めてくれている。

「あれは爆豪くんがすごかっただけだよ」と微熱を宿した手を振ると、「くそー! 俺ももう一戦やりたかったぜ!」と砂藤くんが隣で天を仰いだ。

 話題の彼は、つい先ほど帰ってしまった。ちゃんとお礼を伝えたかったのだが、どことなくまだ意気消沈のご様子だったので、声は掛けずにおいた。そもそもお節介をしようにも、彼の心に塗る薬は持ち合わせていない。

「そういや、八百万、落ち込んでなかったか?」

 左から瀬呂くんがわたしに問いかける。

「百ちゃん? うーん、落ち込んで……はいたかも」
「やっぱりなァ、カラスに捕まったら俺でも落ち込む」

 苦笑いを浮かべる瀬呂くん。──落ち込んではいたんだけど、と訓練終わりの更衣室でのやりとりを思い出した。

『完全にやられましたわ、まさかカラスに捕まるとは……』
『百ちゃんの籠城する城には、怖くて入りたくなかっただけだよ』
『確かに! なんかこわーい装置、いっぱいあったよねー』
『やっぱり……』

 透ちゃんの隣で、とっておきのトラップでしたのに! と、プリプリする百ちゃん。その姿が講評の時の凛とした姿とは相反する可愛さを含んでいて、着替えながらみんなで笑い合った。

 思い出して、ふふ、とまた笑みがこぼれる。

「落ち込んではいたけど、プリプリする百ちゃんが可愛かったよ」と答えると、「なんだそれ」と瀬呂くんが笑った。

「私は蛙だけど、蛙は操れないもの。名前ちゃん、本当にすごいわ」
「あ、蛙吹さんっ! ……ありがとう」
「梅雨ちゃんと呼んで」
「あう、つ、梅雨ちゃん?」
「ええ、お友達にはそう呼んでほしいの」
「お! おともだち!? ……うれしい。梅雨ちゃん、よろしくね」

 突然のミッションコンプリート! 今日の訓練、がんばってよかったあ。心の中でガッツポーズを決めた。

 クラスメイトに声を掛けてもらえて、輪の中に入れてもらえることが素直にうれしい。こんなふうに放課後に友達と談笑することなんて思い返せば初めてかもしれない、と気付いて気持ちが浮き立った。
 彼らは、わたしとお茶子ちゃんが緑谷くんを待って一緒に帰ろうと話していたところに集まってきたメンバーだ。

 楽しく談笑していると、教室の扉が開いた。

「あ! 緑谷くん!」

 わたしの掛け声を合図に、切島くんたちがものすごいスピードで緑谷くんを取り囲んだ。興奮と熱気にまわりを包囲された緑谷くんがあたふたしていて、それがなんだかとても可愛く思えた。


 帰り道。

 飯田くん、緑谷くん、お茶子ちゃん、わたし、は昨日と同じ帰宅メンバーだ。わたしと緑谷くんの前を、飯田くんとお茶子ちゃんが並んで歩いている。どうやら二人は電車の時間を調べているらしい。

 わたしは学校前の坂を下ったところに家を借りているので、本当は誰かを待たずともひとりでさっさと帰れるのだが、昨日3人と一緒だった帰り道がとても楽しくて、今日も彼らと帰ることにした。

「緑谷くん、怪我は治してもらえなかったの?」
「いや、これは僕の体力的なあれで……続きはまた明日ってリカバリーガールが」
「そうなんだ ……個性使うと、いつも怪我しちゃう感じ?」
「うん……まだまだ使いこなせなくて、」
「そっかあ、たいへんだね」

 彼の右腕は首から吊られていて、今日はお風呂に入るのも大変だろう。一度で治癒できないということは、骨が複雑に折れているのかもしれない。その感覚は常人に比べて割と知っている方だが、自分の場合はすぐに再生してしまうため慢性的な痛みが続くことはない。ゆえに、彼の右腕がとても痛ましく思えた。

「でも、爆豪くんの攻撃を何度もしのいでて、緑谷くんすごいなって思った」
「……あ、ありがとう。かっちゃんは……ずっと昔から見てきたから、なんとなく分かるんだ。ノートにもまとめてあって──」
「ノート?」
「……うん。恥ずかしくて、人には見せられないようなもの、なんだけどね。すごいと思ったヒーローは、ノートにまとめてあるんだ」
「すごい! 見たい!」
「え!! ……あ、うん。よかったら、明日持ってくるよ」

 字も汚いし、一度捨てられたノートだからすごい汚れてるし、張り付いてるページもあって……とぶつぶつ呟いていたので、「それでも見たい」と顔を覗くと「は、はい!!」と元気に返事をされた。かわいい。

 やさしいだけじゃなくて、努力家なんだなあ。感心していると、なになに〜? なんの話? とお茶子ちゃんが振り向いた。

「飯田くんのめがね、四角いねって話だよ」
「え、ええ〜〜?!」
「わかるう! 飯田くんって感じのメガネだよね!」
「俺の眼鏡か? ……眼鏡は、ふつう四角いと思うぞ?」

 こんな楽しい帰り道、ひとりで帰るのなんてもったいない。
 我が家は、もう、すぐそこだ。もっと遠くに家を借りればよかったなと、後悔の念が頭をかすめていった。

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